/雨の月曜日/
一週間の始まりが雨・・・嫌なもんです。
ましてやその日は遠く尾鷲まで仕事の下見に行く日でした・・・
「こりゃ来ますね!」
速く流れる雲を見上げもう火の消えたマルボロを口先で転がしながら、
サービスエリアの喫煙コーナーでYは言った。
「来るって何が?」
「雨っすよ雨!」
天気予報では一日もつような予報だったけどYの悪い予感は当たる。
「俺いいすよ!月曜空いてます。尾鷲ですか?天気いいといいすっね♪」
電話で下見に付き合って欲しいと頼んだら快く引き受けてくれたY。
私とは親子ほど歳が離れているけど不思議と馬が合う腕のいい職人である。
それに今までYと出かけて雨にたたられたことが一度もない♪
「俺の“晴れ男”も今日で終わりかも」
運転席のドアを開け乗り込みながらYがボソリとひとり言。
まだまだ先は長い安濃SAからペースを上げる。
松阪を過ぎ勢和多気JCTで尾鷲方面に舵を切ると薄墨色だった空が一段と重さを増す。
サンルーフのシェードを閉めたように車内が暗くなった。
「尾鷲の雨は下から降る」と言われる日本で一番降水量の多いところである。
案の定急速に天気は良くない方向へ進み始めていた・・・
ガラスにポツポツと雨粒が踊りはじめたなっと思った途端、
いきなり洗車機に放り込まれたような土砂降りに変わった。
天気の様子を聞こうにもガラスを打ち付ける雨音でラジオも聞こえない。
周りの車も軒並みペースを落とす。
タイヤの残り溝の深さを思い出しながら慎重に行くよう促す。
奥伊勢PAを過ぎたあたりからもういけません!
大宮大台ICで気勢自動車道を降り42号を少し戻って、
道の駅奥伊勢おおだいに逃げ込む。
Yが一緒だからとたかをくくって傘を持ってこなかったことを後悔しながら建物に走る。
レストランの中は雨から避難した客で大繁盛。
空いた席を見つけ名物“おいしかバーガー”を頬張りながら行くか戻るかの相談をしていると、
ふと目に止った低く黒い影・・・
そのクルマは広い駐車場の隅にポツンと“居た“
雨のせいで濃緑なのか黒なのか車体の色ははっきりしないけれど、
昼間なのに点灯し始めた近くの外灯のおかげで名古屋ナンバーのモーガンなのは分かった。
3度の飯よりも雨の日が好きなのか、もう破れかぶれなのか、
事情は分からないが今日がオープンカーには考えられる最悪の組み合わせなのは間違いない。
暗黙の了解で帰ることに話がつくと残りのバーガーを口に押し込み再び駐車場を走る。
「この降りでオープンカーですよ!どんな奴が乗ってるのか見たいじゃないですか♪」
分かってるねぇ♪頼んでもいないのに、かのクルマに向かうY。
さっそくモーガンの前に陣取り主役の帰りを待つ二人。
オーナーなのか見るに見かねた通りすがりの人なのか、
骨の折れた緑のビニール傘が運転席にかけてあった。
緑から濃緑へボディの濃紺へと流れて行く雨粒。
屋根を叩く雨の音が静粛さを際立たせている・・・
「来ませんねぇ行きますか?」
しばらく待ってみたが現れないので神輿を上げることにした。
降りしきる雨のなかハンドルを細かく修正しながらしかし悠然とペースを上げ、
他車を追い抜いてゆく濃紺のモーガンを思い描きながら帰路についた。
途中ケントエンジンの咆哮を聞いたような気がした・・・