/街外れの小さな映画館/
小学生のころの友達に映画通のゴリちゃんがいた。
「いや~これは観ないとだめだよ!このチャンスを逃がすと一生後悔するよ!」
スラリとしていて色が白く女の子に人気の高いゴリちゃんが熱く語る。
なんでも名作映画が期間限定で上映されるらしい。
あんまり乗り気ではなかったけど熱意にほだされて行ったのは・・・
ジョン・フォード監督、ジョン・ウエイン主演の、
゛駅馬車“だった・・・
西部劇それもモノクロ、映画といえば生まれてこのかたゴジラとモスラとガメラしか
見たことがない私にこれはキツイ!
上映時間中意識を保つのに精いっぱいで内容なんかまったく覚えていない。
「リンゴ・キッドが倒れ込みながら放った一発!轟く銃声!あ~」
帰り道も映画の見どころをこれまた熱く語るゴリちゃん。
その後もゴリちゃんとの映画巡礼は続く・・・
街の外れに小さな映画館がある。
古くて狭い上に壁には穴が開いていて映画を見ながら外の天気が分かる。
背後から名前を尋ねられ、
「ボンド、ジェームズ・ボンド」
と答え振り返った007の頬に大きな傷が・・・
スクリーンには継ぎが当たっているところも・・・
【任侠映画じゃないんだから】
その日は珍しく私の意見が通り“マカロニ・ウエスタン”3本立てを見に行った。
当時映画は入れ替え制ではなく一度入ってしまえば何度でも観ることができた。
“荒野の用心棒、続荒野の用心棒・夕陽のガンマン”今では考えられない。
映画の後、私は早撃ちのテクニックをゴリちゃんに熱く語った。
仕返しである。
自転車の鍵をガンマンのようにグルグル回しながら外へ出てみると、
こんな田舎の映画館には不似合いな真っ赤なビートルがいた・・・
その後も何度もゴリちゃんと映画に行くうちビートルの持ち主とも仲良くなった。
中田さんも無類の映画好きでゴリちゃんと話が弾んだ。
私はというと最近隣の席に引っ越してきた“クルマ好きⅠちゃん”の影響で、
ビートルの方に興味津々だった。
中田さんは若いころアメリカに住んでいたこと、
アメリカではドライブ・イン・シアターといってクルマで観る映画に奥さんとよくいったこと、
ビートルはフロントガラスがフラットなので見やすく奥さんのお気に入りだったこと、
屋根が幌のビートルはカブリオレと呼ぶこと、
奥さんは小柄でポップコーンが好きだったこと、
3人で時間を忘れて映画やクルマや好きな女の子の話をした・・・
その日は新作が掛かる日、
楽しみにしていたのに駐車場にビートルは無かった・・・
映画館の人の話では中田さんは大好きだった奥さんを早くに亡くしていて、
最後は奥さんの眠るアメリカに帰りたいと話していたらしい・・・
ほどなくして映画館は取り壊されてスーパーに変わった。
SF、アクション、西部劇・・・
映画の名シーンと共に思い出す、
人懐っこい笑顔と赤いカブリオレ。
ちょっぴり淋しくて懐かしい思い出。