/てんとう虫の思いで/
小学生の頃同じクルマ好きのIちゃんやG君と、
時間があれば車を見に出かけていた。
今ならわざわざ車を見に行くくらいだから余程珍しいスポーツカーか、
高級輸入車だろうと思うかもしれませんが、
獲物は普通の車。
昭和30年代自家用車それ自体が特別の時代。
でもさすがに近所のクラウン、セドリック黒塗り社用車は攻略したので、
休みの日は足を伸ばして・・・
と言っても移動手段は自転車なので駅前までがせいぜい。
そこで!
遠くへ行きたい時は必ずMちゃんも誘った。
それはMちゃんのお兄ちゃんが“てんとう虫“を持っているから。
ゴマをすって乗せていただくための作戦♪
「なあMちゃん♪またスバル乗せてくれへん!兄ちゃんにたのんどいてなぁ♪」
我家に“パブリカDX“やってくるのは3年後のこと、
G君家に“隣の車が小さく見えますの2代目サニー”が納車されるのはさらに2年の歳月が必要。
つまり今車に乗れるチャンスは昼間のバカ騒ぎが祟って夜突然熱を出して、
ブルーバード410かコロナのタクシーに乗せられ医者へ走るときか、
歳の離れたお兄ちゃんのスバル360に乗せてもらうしかない訳で・・・
ただし前者の場合お尻にデカイ注射のオマケ付き!
いま思うと小学生なんか乗せてドライブなんて最悪だっただろう、
でもお兄ちゃんはいったって気がいい上に彼女もいないので、
大高緑地の交通公園や出来て間もない鈴鹿サーキットとか、
休みになるとよく僕達4人を“てんとう虫”に乗せていろんな所へ連れて行ってくれた・・・
小学生から見てもそれほど広くない車内に乗り込み、
丸いガラスに顔を押し付けて過ぎていく景色を同じ後部座席のIちゃん君とウットリ眺めていた・・・。
お兄ちゃんが吸うハイライトの煙・・・
ラジオから流れる流行歌・・・
ゆらゆら揺れる交通安全のお守り・・・
背中から聞こえてくる優しいエンジンの音・・・
至福のひと時♪
と、坂を登っていたてんとう虫が急に止まった!
「おい、降りろ!」
「この坂は5人乗りじゃ無理や。2人降りな」
私とブウブウ言ってるG君を坂の下に残し、
360cc空冷直列2気筒16馬力の非力なてんとう虫は、
2スト特有の白い煙を吐きながら坂を一生懸命上っていく・・・
てんとう虫の思い出は・・・
小さなタイヤと丸いお尻とタバコの匂い♪